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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)376号 判決 1968年7月31日

控訴人

中増義文

被控訴人

大阪市

右代表者大阪市水道局長

長谷川寛一

指定代理人

平敷亮一

ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、

(一)  原判決中原告の請求の趣旨第一項に関する部分を取り消す。

(二)  被控訴人は、控訴人に対し、大阪市東淀川区西中島町八丁目一五六番地宅地1,116.53平方メートルに建物建築居住する別紙第一目録記載の者および同所八丁目一五七番地宅地3,292.562平方メートルに建物建築居住する別紙第二目録記載の者に給水する大阪市東淀川区西中島町八丁目一五〇番地西南地先道路敷中央部分地点(地下道入口南側)の地下に設備した分水栓と右控訴人所有宅地二筆へ通ずる給水管二本とをその接続部分において分離し右分水栓を封鎖して別紙第一、第二目録記載の者への給水を廃止せよ。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決を求め、

被控訴人訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の提出、援用および認否は、

(一)  控訴人において、「水道法は、水道需要者が土地に対し所有権・賃借権等の使用収益権を有することを前提として規定し、給水にあたつては土地所有者の土地通過承諾書の提出を必要条件としている。しかるに、時本曠嗣ほか五名が給水装置工事申込書に添付した控訴人の本件宅地に対する土地通過承諾書は、控訴人の署名・押印を偽造して作成したものであり、これを添付してした給水装置工事申込みおよび該申込みにもとづく給水契約は無効である。したがつて、別紙各目録記載の者に対する被控訴人の給水義務は生じていない」と陳述し、

(二)  被控訴人訴訟代理人において、「被控訴人が給水装置工事申込みを受けるに際し土地所有者の承諾書を提出させるのは、給水工事等を行なう際の紛争等を避けるための便宜の措置であつて、土地所有者の承諾のあることが、被控訴人が給水を行なうにあたつて法的に必要な要件となるものではない」と陳述し、

(三)  証拠<省略>

理由

一当裁判所は、つぎの二のとおり付加訂正するほかは、原判決が詳細に説示することろと同じ理由により、控訴人の請求の趣旨第一項の請求を失当と判断するから、右説示の記載をここに引用する。

二控訴人は、被控訴人の水道給水にあたつては土地所有者の土地通過承諾書の提出が要件とされているにかかわらず、本件では偽造の承諾書が提出されているから給水契約は無効であると主張する。

しかしながら、給水申込者がその占有する土地につき土地所有者に対する関係で正当な占有権原を有しないとしても、水道事業者がそれを理由に給水を中止して拒むことの許されないことは、右に引用した原判決理由に説示するとおりである(原判決理由第四項)。土地の不法占拠者に対する給水が該不法占拠の継続を助長する、という理由で不法占拠者への給水義務を否定するならば、公衆衛生上ゆゆしい事態を招くおそれが多分に存することから考えても、一般に、水道事業者は、需要者の申込みに応じて無制限に水を供給する義務を負うものと解すべきである。したがつて、不法占拠者に対する給水契約も有効であり、また、土地所有者の同意ないし承諾も給水のための要件ではなく、提出された同意書や承諾書が偽造であるからといつて給水契約を無効とすることはできない。もつとも、大阪市水道事業給水条例第一一条第二項および同条例施行規程第一三条は、「他人の所有地を通過して給水装置を設置するときは、土地所有者の同意書」の提出を求めているけれども、これは、給水工事等を行なう際の紛争を避け工事施行を円滑にするための便宜の措置にすぎないものである。したがつて、右規定を根拠に、水道事業者は同意書の真偽を調査し偽造の場合は給水を拒否すべき義務あるものということもできない。よつて、控訴人の右主張は採用できない。

以上に関連し、建築基準法違反の建築の絶滅を期するため該建築物に対し水道を給水しないことができるかという問題が最近各方面で取り上げられていることは、公知の事実である。たしかに同法違反の建築が公共の安全を害すべきことはいうまでもないけれども、これに給水を拒むときは、すでにはいつている善意の居住者からは生活用水を奪うことになるほか、公衆衛生上も憂慮すべき結果を惹起するに至ることも否定できないところである。したがつて、かような諸点について慎重な措置を十分に講じたうえであるならば、同法違反の建築物に対する給水拒絶も現行法上許されると解する余地もないわけではない。しかし、これはまつたく公共の安全のためにする施策にほかならず、その結果同法違反の建築が事実上なくなりそのためたまたま該建築に承諾を与えていなかつた敷地所有者が反射的に利益を亭受することがあつても、このことを理由に該敷地所有者から水道事業者に対し給水拒絶の措置をとるべきことを請求できる権利があると解することはできない。原判決理由中には右判断に一部抵触する趣旨の部分があるけれども(原判決理由第五項)、これは以上のように訂正する。

三よつて、原判決中控訴人の請求の趣旨第一項の請求を棄却した部分は相当であるから、民事訴訟法第三八四条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(井関照夫 藪田康雄 賀集唱)

第一・第二目録省略

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